最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)1472号 判決 1969年2月13日
上告人
野沢佳作
右代理人
酒井信雄
被上告人
山下関五郎
右代理人
金子新一
金子光一
主文
原判決を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人酒井信雄の上告理由第一について。
被上告人が請求原因として主張するところによれば、訴外岩崎政勝は訴外米谷ツヤ子に対する金一〇万円の貸金担保のため、米谷所有の(1)本件宅地および(2)大阪市東成区大今里本町五丁目四六番地の三宅地一七四坪、(3)同丁目五四番地の一宅地二〇九坪五合六勺の三筆につき、米谷が右債務を弁済しないときは代物弁済によりその所有権を取得すべき旨の所有権移転請求権保全の仮登記をつけたところ、岩崎は右のうち(3)の宅地を代物弁済により所有権を取得し、これによつて右一〇万円の貸金債権は消滅し、したがつて、本件宅地について右仮登記は無効のものとなり、抹消すべきものとなつたのにかかわらず、上告人は、岩崎より右所有権移転請求権保全の請求権を譲受けたとして、その仮登記の移転登記を受け、次いで、これに基づいて代物弁済による所有権取得登記をしているから、本件宅地の所有者となつた被上告人は、上告人に対し、上告人が本件宅地について有する右本登記の抹消登記手続を求めるというのである。そして、原判決は、右三筆の宅地につき一〇万円の債権のため所有権移転請求権保全の仮登記のつけられたことを認定したうえ、債権者岩崎政勝は(3)の宅地については代物弁済として所有権を取得したが、本件宅地については、代物弁済により所有権を取得したことを認めるに足る証拠がないと判断して、被上告人の請求を認容した第一審判決を維持したものであることは、原判文上明らかである。
しかしながら、原判決は四枚目裏四ないし五行目のかつこ内の記載により明らかなように、第一審判決の右(3)の宅地の代物弁済により金一〇万円の貸金債権全額が消滅したと判断した部分をとくに除いて第一審判決理由を引用している。そうとすれば、本件宅地については前示の仮登記が存在し、これに基づいて所有権移転登記がなされている以上、原審の右判断は、基礎たる貸金債権が消滅したから、上告人が本件宅地について代物弁済により所有権を取得することはあり得ないというのでなく、その趣旨は、予約完結の意思表示がされていない等何等かのため、上告人は本件宅地につき所有権を有しないというものと解される。しからば、何が故に上告人の本件宅地についての所有権取得登記が抹消されるべきか明らかでなく、原審はいかなる理由で被上告人の請求を認容したのか明らかでないのである。したがつて、原判決には、審理不尽、理由不備の違法あるものといわなければならず、論旨はこの点において理由があり、原判決は破棄を免れない。
よつて、上告理由中その他の点に関する判断を省略し、事件について更に審理させるため、民訴法四〇七条一項により原判決を破棄して、本件を原審に差し戻すこととし、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。(松田二郎 入江俊郎 長部謹吾 大隅健一郎)